自宅は東北なので3月の地震被害の後始末がまだ続いている。
 あの地震は家屋を斜めに揺さぶるような揺れ方で,CD棚も横倒しになって数々の音楽の夢たちはバラバラと床に飛び散ってしまった。
 それは破れた広告みたいに切れ切れになり,見るも無惨な姿をさらしていた。
 しばらくは片付ける気力もなく放置していたものの,そのままというわけにもいかず,少しずつ集めて整理にかかったのだが・・・

 そういう中で気付いたのが,マルケヴィッチの盤が意外に多いことである。「名盤」と言われた日フィルのストラヴィンスキー「春の祭典」やラヴェルとドビュッシーの管弦楽作品,そのラヴェルはスペイン放送響やロイヤルコンセルトヘボウの演奏もあり,最も多いラムルー管との録音はベートーヴェン「田園」「英雄」から「幻想交響曲」まで出てきて,まあ,レパートリーもオケも雑多で一見まとまりない。
 
 こわれた記憶の破片を継ぎ合わせるように整理しているうちに,何となくあのCDを探していた。それは,ビゼーの「カルメン」と「アルルの女」である。
 いつまでも心惹かれる究極の名演と言っていい。
 音楽的バランス感覚というのか,鋭いリズム感で無駄が無い絶妙な響きに満たされている。これが緻密なリハーサルから来るものであることは素人でも分かり,一聴して指揮者の知見と教養が隅々まで充溢している。いわゆる「通俗名曲」だからこそ,指揮者の人間力が問われると言えるのではないか。
 これを瓦礫の山から見付けたときは,思わず小さく快哉を叫んだ。

 さて,ロシアによるウクライナ侵攻から3ヶ月が経ち,否応なしにその地を意識するようになったが,『ひょっとしたら?』と思い調べたら,このマルケヴィッチはキーウ出身だった!
 2歳頃に一家でスイスに移住というが,ウクライナの音楽家と言って間違いない。
 事のついでに「ウクライナ出身音楽家」と検索してみたら,出てきたのが,あのリヒテルやギレリス,それにオイストラフやミルシュテインという誰もが知る懐かしい巨匠達で,二度ビックリだった。
 そう言えば筆者が所属するアマチュア弦楽合奏団の団内演奏会では,グリエールの小品が演奏され,このウクライナ出身の作曲家についても知る機会を得た。 
 これまでは「ロシア出身」というので十把一絡げに捉えていたが,その中にはウクライナもベラルーシその他も含まれていた。それでも,こうしてその偉大な面々を知ってみると,「ウクライナ出身」音楽家には,一風共通した特徴があるような気もする。
 しかしあのマルケヴィッチがこれを聞いたら,数々の指揮者を育てた彼なら,
『真の音楽にロシアもウクライナも,フランスもない!』
と切って捨てたことだろうけど。